2007年10月30日火曜日

孫の手も借りたい(違)

 なぜだろう。なぜ、こんなに鮮明に覚えているんだろう?
…といっても、大して時間が経っているわけではないのだが...。



 それは一家団欒の時間だった。テーブルを囲んで家族4人、冬休みか春休みに何処へ行こうかという話合いの最中だった。息子が来年の春で小学校を卒業するので、卒業記念もかねて一週間くらい海外旅行をしようという話をしていたのだ。

 息子は海でシュノーケリングを体験したいと言う。オーストラリアのケアンズの海で、紫色の舌を出したシャコ貝を見ながらシュノーケリングをした話をすると興味深々だ。
 娘はフランスへ行きたいと言う。家内が独身時代に行った時の話を興味深く聞いている。特にルーブル美術館が見たいようだ。それから「ベルサイユの薔薇」の世界に浸ってみたいらしい。

 家内は、年末の海外ツアーは何処も一杯だったので、取り合えず年末に沖縄へ行ってみたいと言う。ただ、沖縄本島のツアーなので、私にとっては「美ら海水族館」くらいしか見所がない。八重山諸島、特に竹富島には是非とも一度行ってみたいのだが...

 などと考えていた時、それは突然やって来た。

「痒い」

 背中が痒い。凄く痒い。とても痒い。たまらなく痒い。しかも最悪なことに背中に手を回して掻こうとしても痒い場所は手が届かない場所だ。

 しかし、大丈夫だ。我が家には麗しい家族愛がある!

 というわけで、息子に「ちょっと背中掻いてくれよ、手が届かないんだ」と頼んだ。
 すると息子は「手が届かないの?僕は届くよ」と自分の背中に右手を上から、左手を下から差し出して握手して見せた。

 …おいおい。

「じゃなくて、お父さんの背中掻いて欲しいんだけど?」

 しかし、息子は聞こえなかったのか、再び旅行の話に戻って、家内に「グアムで良いから泳ぎに行きたい」と力説している。おいこら、人の話をちゃんと聞けよ...。
 だいたいうちの息子は自分の話に夢中になってるといつもこうだ。人の話を最後まで聞いてないのだ。しょうがないので、娘に「ちょっと背中掻いてよ」と頼んだ。

即答で「イヤ...」orz

 なんだか「イヤ」の後に小さな声で「キモイし」って聞こえたような気がする。おいおい、父親に向かってキモイって...。14年前にお前のウンチまみれのお尻を拭いてオムツを替えてやった恩を忘れたのか? もう深夜アニメなんか録画してやらないからな、この親不幸者!!

 じゃ、じゃあって家内の・・・って、口を開けようとした瞬間、氷のような一瞥を浴びた。さすがは恐妻会会長の細君だけのことはある。

 …ううっ、夫婦は助け合ってこそ夫婦じゃないのか(号泣)。

 我が家の麗しい家族愛はどこへ行ったのだ?お父さんは悲しいぞ。

 というわけで、困った。とにかく困った。四面楚歌だ、背中の痒さはどんどん増して来ている。この痒さにいつまで絶えなければいけないんだ。この世には神も仏もいないのかっ!!

 もう旅行なんてケアンズだろうがフランスだろうが草津だろうがどこでも構わない。とにかく誰か俺の痒みをなんとかしてくれっ!!

 と、その時、我が家には秘密兵器があったことを思い出した。そうだ、背中が痒いときにはやはりアレだよ。
 「これで万事解決だ!」と思い、にこやかに家内に尋ねた。

「ねぇ、孫の手はどこにある?」

 しかし、家内は無表情で応えた。

「知らない」

 がぁ~んっ!がぁ~んっ!がぁ~んっ!がぁ~んっ!がぁ~んっ!
 ウソだ、ウソに決まっている。夫婦間にウソがあって良いのか!!

 この部屋のどこかに孫の手があったはずだ。片付け魔の家内が知らない可能性なんて1%以下じゃないのか?
 ダイソーで税込み105円で買ったあのピンクの孫の手、あれさえあれば絶望にひしがれた俺の人生が再び希望に満ち溢れるというのに!!

 ショックついでに尿意までもよおしてきた。背中が痒い。でもトイレにも行きたい。どっちを優先すべきか、背中が痒いのを我慢してトイレに駆け込むべきか、トイレを我慢して背中の痒み解消に全力を注ぐべきかっ!

 ああ、頭がパニックだ。考えがまとまらん!!

「誰か、誰か助けてくれぇ~~~!!!」

と、叫ぼうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。その時なぜだか世界は漆黒の闇の中だった。



 気がついたらベッドの上だった。あまりの痒さに意識を失ってしまった・・・はずはない。
 時計を見たら午前4時半だった。

「・・・夢だったのか?」

 ただ、背中が痒いのは紛れもない現実だった。夜寒かったので、フリースのパジャマを着て寝ていたのだが、布団の中の温度が上がって背中が痒くなったらしい。

 寝るときは枕元に孫の手を。人生備えあれば憂いなし。人間万事塞翁が馬だ(謎)


携帯式孫の手 のび手くん

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