2007年11月10日土曜日

【映画】QR:なぜミキは明日香に涙したか?(ネタバレ)

��Rって書くとERっぽくてカッコイイな♪(ぉぃ

 以下、これから「クワイエットルームにようこそ」を観に行こうと思ってる方は読まないように(笑)
 ちょっとでもQRに興味が湧いたら、ぜひ映画を見てね!



 某SNSのコミュで、QRのクライマックスのシーンについて以下のような質問があった(若干編集あり)。
明日香が西野に部屋を荒らされ、癇癪を起こそうとした時、ミキは明日香を止めます。
その時、明日香はミキに「触るな。バケモノ!」と言って殴ります。
その後、明日香が再びクワイエットルームに入れられた時のシーンで、ミキは涙を流しながら「おーい。」って声をかけていました。

なぜ、あんなひどいことを言われたのに、ミキは泣いていたのでしょうか?

 この映画の核心部分だ。私も遅ればせながら映画を見て、このシーンの意味を考えてみた。

 考察の前に、ネットで調べると原作と映画には以下の違いがあった…って、原作を買って読みたいところだが、今月は既に「容疑者χの献身」とか単行本まで買ってしまい、お小遣いがピンチなのだ(爆)

原作と映画の相違点違っていればツッコミ歓迎!
○ ミキが拒食症になった理由
原作明かされない(トイレでは黙って立ち去る?)
映画「自分が1食、 食べなければ、世界のどこかの人が1食、食べられる。 そのシステムに気づいたとき、食べ られなくなったの」

○ 明日香がミキを殴った時の言葉
原作「精神病院の入院患者に対して絶対言ってはいけない言葉を言ってしまった」
映画「触るな。バケモノ!」

 原作では読者は婉曲的な表現から明日香が何を言ったか容易に連想できるが、映画だとそのものズバリになるので、苦肉の策で言い換えしたものと思われる。
 場面的には明日香がそのものズバリの発言をしても、それがすぐさま差別問題になるとは思えないが、全国公開のエンタメ性が強い作品である以上やむを得ない選択なのだろう。

私なりの解釈

 ミキ(蒼井優)は頭が良くて鋭い感性の持ち主。だから映画の冒頭に明日香(内田有紀)をクワイエットルームで見た時に「自分と同じ類の人が来た」と判断したのだろう。
 ミキは自分が食事を摂るだけの資格がない人間だと思っている。つまりはほぼ自殺願望者なわけだ。しかしながら同時に理性も持ち合わせているので、体重を増やして退院しようと努力もしている。明日香は、そんなミキの理性的な側面しか知らず、体質的に食事が摂れないだけの自分と同じ“正常者”だと判断していた。実はミキの判断が正しく、明日香は誤解していた...。

 その一方、明日香はミキから提供された情報(だったよね?)で「西野(大竹しのぶ)は過食症で食べては嘔吐する“異常者”だ」と認識していた。ただし、映画の中で西野が嘔吐するという場面は一度も出てこない(ここはツボだね)。

 そして、後半の問題のトイレのシーン。扉の向こうで嘔吐しているのが西野だとばかり思って、借金を返す話を始めた明日香は、扉を開けて出てきたのがミキだと知って驚く!
 「拒食症の自分が食べられないのに、過食症で食べては嘔吐する」と西野を忌み嫌っていたはずのミキが実は嘔吐していた!
 これだけでも明日香は「ミキは西野と同じ異常者だ」と思うだろうね。

 ところが、それに追い打ちをかけるようなシーンが続く。

 明日香に嘔吐していることを知られてちょっと自虐的になったのか、あるいは自分と同類である明日香なら甘えても良い ― 自分が苦しんでいる理由を話しても良い ― と思ったのか(多分両方かな)、ミキは明日香に拒食症になった理由を話し、明日香は自分と同類だとを告げる。

 このシーンの蒼井優の演技が本当にゾッとする。蒼井優は黒い衣装にドレッドヘアで厚化粧という出で立ちで、りょうに負けないほどの鋭い視線でガン飛ばしまくるんだけど、明日香に「システムに気づいたとき~」なんて話しかけている時は不気味さまで漂わせている。

 優ちゃん怖すぎ!!この映画の中で一番怖いシーンだぞ、ここは。

 正常だと思っていたミキが実は西野と同じ“異常者”だった。さらにそのミキから同類扱いされた。明日香大ショック!!

 で、我にかえると再びクワイエットルームで5点拘束。明日香はなぜまたここにいるのか、冷静に思い出す。

 信用していたミキに裏切られ、打ちひしがれて自室に戻った明日香が見たのは、明日香のプライベートを詮索して土足で踏みにじる西野の姿。コモノ(妻夫木聡)から明日香への差し入れを全部ぶちまけ、明日香の大事な銀のパンプスを履き、鉄ちゃん(宮藤官九郎)が書いた手紙を読み上げる西野。鉄ちゃんの手紙には、病院に運び込まれた日に明日香が「自分は生きる価値がない。死なせて」と喚いて睡眠薬を大量に摂取した結果、昏睡状態に陥ったという衝撃の事実が記されており、その事実を指摘してはしゃぐ西野に明日香は逆上、止めに入ったミキに「触るな。バケモノ!」と叫び殴り倒す・・・。

 大竹しのぶの不愉快極まりない演技。さすがと言えばさすがだけどね(汗

 結局、明日香は自分に自殺願望があることは紛れもない事実だと受け止める。自分は本当にミキと同類だった。一方でミキは、自分が明日香に言った言葉が、明日香の感情の起爆スイッチを入れたことに気付いたのだろう。ミキが自分の本音を話したのは明日香が初めてなのかも知れない。

 明日香とミキは同類なので、明日香がミキを殴った行為は、言わば自分自身を殴ったのと同じということ。それが自分の甘えから出た言葉に端を発していることを後悔してミキは涙したのではと思う。
ミキは見かけはクールだが、実は優しいコなのだろう。

 この「おーい」のシーンで二人はとても穏やかな表情をしている。特に蒼井優はそれまでの鋭い目つきが優しい眼差しに変わっている(ほとんどイッてる目つきで演技してるからね)。明日香が微笑み、ミキが涙するのは、普通なら立場が逆だと思うが、明日香には感謝の気持ちが、ミキには謝罪の気持ちがあったということだろう。明日香の誤解が解け、本音のレベルでお互いに共感できたということじゃないのかな?



 物語は、その後明日香が面会に来た鉄ちゃんに「『鬱陶しい』と言って」と頼んで実際に言われてちょっと嬉しそうにした ― 本当の自分と向き合う、自殺願望を克服して生きる覚悟ができた ― シーンにつながる。そして明日香の退院日。普段は退院患者の色紙にメッセージを書かないミキが赤い字で絶交を意味するメッセージを書く。閉鎖病棟での絶交は外の世界では信頼関係の証だろう。

 内田有紀や大竹しのぶが弾けまくってる中で、蒼井優は意外な程全面に出る場面は少なく、物静かな役どころ。しかし、このドタバタコメディの中でクールに演技して大竹しのぶに負けないインパクトを与える役を演じる蒼井優はやはり凄いというしかない。その蒼井優を起用した松尾監督も恐るべしだろう。


クワイエットルームにようこそ シナリオ&アーツBOOK

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