2007年9月1日土曜日

たらい回し?‐報道の義務を忘れた無責任な産経社説

 この件、某SNSにちょっと書いたけど、産経の社説があまりにいい加減で無責任なので敢えてブログにも書くことにする。
 って、ココにも書いたから産経の記者は誰かが読んでるだろうね...。

 まず、断っておくが流産にあわれたご婦人は大変お気の毒だと思う。当時の状況からこのご婦人の行動を問題にしているブログも見受けられるが、少なくともその当時このご婦人は救急車で病院に搬送されるだけの理由があったことは間違いないだろう。私生活云々は大きなお世話だし自己責任を問うのもお門違いだ。
 「タクシー代が勿体無い」とか「救急車で行った方が早く診てもらえる」とか「税金払ってるんだから」と救急車を呼ぶ輩とは明らかに違うのだから。

 閑話休題。

 問題の産経社説 【主張】妊婦たらい回し また義務忘れた医師たち

 まず産経社説でセンセーショナルに「たらい回し」と書いているが、新聞記者たるもの「たらい回し」の意味を知らないはずがない。

 たらいまわし【盥回し】:ある一つの物事をなれ合いで他の者に送りまわすこと。 (「大辞林 第二版」より)

 今回の事がなぜ「たらい回し」となるのか社説を書いた記者は説明して欲しい。

 産経新聞8月29日付の記事、「奈良から救急搬送の妊婦が流産 10病院受け入れ断る」に、以下の記述がある。
 女性にかかりつけの医師はなく、通報を受けた同組合が県内の空きベッド情報を確認したところ、県立医大病院(橿原市)にベッドがあったものの「手術中で対応できない」と断られたという。

 消防組合は大阪府内の病院に受け入れ要請を続けたが、難航。10病院、延べ12番目に問い合わせに答えた高槻病院に搬送することが決まった。その間、救急車はスーパーで待機。出発できたのは午前4時19分だった。
 「たらい回し」と言う言葉から受けるイメージは救急車でA病院へ行ったら「うちでは対応できないからB病院へ行ってくれ」と言われ、B病院へ行ったらC病院へ・・・というものだろう。
 或いは、お役所に電話したら「それはA課の担当です」とA課に回され、A課では「それはB課の担当です」と言われC課へ・・・というようなものだ。
 今回のケースはそうではなく、受け入れ要請を断り続けられたのであって「たらい回し」にされたわけではない。引用した29日の記事では断られ続けたことが書かれているのに、それが社説でなぜ「たらい回し」になったのか?

 社説を書いた記者は自社の記事さえ正しく読めないのか?そうでなければ読者に悪い印象を与えやすい言葉を悪意を持って恣意的に使用したとしか思えない。

 次に社説の冒頭部分
 次々と病院から受け入れを断られ、たらい回しにされた奈良県の妊娠中の女性が、救急車の中で死産した。


 一連の報道でもこのご婦人が搬送当時妊娠していることが既定の事実のように扱われているが、これはおかしい。

 社説にもこう書かれている
しかし、死産した女性はかかりつけの医者がいなかった。このため、一般の搬送の手順で消防隊が受け入れ先を探した。これが時間のかかった理由のひとつだという。
 では、誰がいつこのご婦人が妊娠していると“診断”したのだろうか?

 病院に行って「風邪惹いたんですが」などと言うと「診断するのは私だ」と医者に言われた経験のある人も多いだろう。事故等で亡くなられた人でも病院へ着く前は「心肺停止状態」とされ、病院で死亡が確認される。つまり、病院へ搬送するまで誰も診断できないからだ。

 奈良県の幹部は「かかりつけ医のいない妊婦の搬送は想定外だった。すぐに対策をとりたい」と話すが、トラブルや事故は予期せぬ中で発生するのが常である。早急に抜本的対策をとる必要があろう。
 これは結果論で批判しているに等しい。このご婦人は結果的に高槻病院で妊娠し流産したことが確認されたのであって、搬送時にはどれだけ緊急性を要する事態かは正確にはわからなかったはずだ。自治体が「妊娠したら特に異常がなくてもまず医師の診断を受ける」という取り組みを図るべきだ。そうでなければ医療現場の混乱を招く。

 妊婦のたらい回しは、奈良県だけに限った問題ではない。厚労省は産科医などの医師不足対策に本腰を入れて取り組むべきである。
この部分は正論。でもこの後は暴論。

 それにしても、痛みをこらえる患者をたらい回しにする行為は許されない。理由は「手術中」「ベッドがない」といろいろあるだろうが、患者を救うのが医師や病院の義務である。それを忘れてはならない。
 まず何度も書いているが「たらい回し」にはしていない。
 そしてもうひとつ、県立医大が受け入れたとしても医師が緊急の患者の対応に5時間6時間もかかったらどうだろう?3時間後であっても高槻病院に搬送した方が最善だったということも考えられるのでは?

 以前、家族の急病で夜中に救急病院へ駆けつけたが夜明けまで診療を待たされたことがある。もちろん「いつまで待たせるんだ?」と感情的になってしまうが、医師だって診療を続けているのだ。

 この社説を書いた記者は何を以って医師が義務を忘れたなどと断罪できるのか?
現場で最前線で昼夜を問わずに働き続ける医師たちに対する心無い記事。正確な報道を心がける義務を忘れているのはほかならぬ産経新聞だ。

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その日本語は間違いです―正しい言葉の使い方 (日経ビジネス人文庫)

2 件のコメント:

  1. るみちゃん2007年9月2日 1:04

    子供を産んだことがある人は、みな疑問におもったはず。普通は、かかりつけの医者に連絡して、緊急ならそこの提携先に紹介してもらえるはずじゃ?助産院でも提携病院があるはずですからね。「手術中」などの理由でこの妊婦さんを受け入れなかった産科が「手術」していたのは、もちろん出産の契約をしているその病院をかかりつけにしている患者さんだと思います。
    出産費用がもったいないから、ギリギリまで医者にかからず、と思っていたのかもしれませんが、出産費用って普通は健康保険で戻ってくるはずなので、出産に限って言えば、後からですが、お金はかからないと思うんですけどね。

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  2. さとし@快投乱打2007年9月2日 7:02

    るみちゃんさん>
    コメントありがとうございます。
     少子化対策で出産費用っていろいろ補助が出る自治体も多数あるようですね。
     そして一度も診断されてない妊婦さんだと最初に色々と診断をしなければならないから、術を施すまでに時間がかかることは十分予想されます。かかりつけの妊婦さんの分娩でてんてこ舞いの病院に運ばれてもすぐに何ができるのか疑問です。
     こういう報道ってそういうことは一切考慮しないんですよね。

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