今回の最終話は、誰もが録画しているとは限らないTVシリーズで、歌とストーリーと映像の洪水の中から答えを見つけなけらばならないという実に無茶で過酷内容だったと言っていいだろう(爆)
まぁ、河森総監督としては、それを覚悟で何人かに1人理解して貰えればいいというスタンスだったようだが。まさに“フロンティア”ということか?
まず、ストーリーを読み解く大前提として、河森総監督以下の製作スタッフがマクロスFにどういう世界観を持ち込んでSF的な世界を構築したかを推理する必要がある。
これまでマクロスシリーズでは、一貫して、太古のプロトカルチャー文明の遺産である
OTMによって、近未来(発端はすでに現代)でありながら現実世界とは別の進化を遂げた世界でストーリーが展開されている。
本作品では、それに加えて「バジュラ」と呼ばれる“超時空生命体”の存在が追加され、バジュラとの攻防がストーリーの軸となった(「フォールド断層」や「次元断層」も今回新規に追加された概念と思われる)。
グレイス=ギャラクシーの敗因
今回のストーリーを読み解く大きなポイントは、なぜ銀河系支配に失敗したかということだ。銀河系支配を企んだことよりも、失敗した原因の方がストーリー的には重要である。
グレイス=ギャラクシーの最大の落ち度は、バジュラに対する皮相的な調査結果だけでバジュラを理解したと思ったことだろう。
バジュラ・クィーンのの頭を乗っ取り、プロトコルを掌握すれば支配できると考え「リトル・クィーンなど不要、歌など無意味」という驕りたかぶりと大勘違いが墓穴を掘ってしまったわけだ。
グレイスはバジュラを宇宙最強の超時空生命体だと言ってる割には下等な生物だと勘違いし、
通信プロトコルを解析してクィーンを乗っ取って指令を出せば支配できると思っていた。
しかし、実際には愛KUNを見てわかるように、バジュラは群れ全体で思考するだけではなく、個々の固体で心をもち、全体的な統制を乱さない範囲で自律的な思考と行動ができた。それを地球上の生物の脳にあたる部分が見当たらないからと見過ごしてしまったのだ。バジュラは腸内細菌がいる腹に心があり、腹で歌うことをグレイス達は理解していなかった。
バジュラが人類を襲う理由についてグレイスが「邪魔だからよ、単に」と呟いているが、これが彼女の浅薄さだろう。
さて、最終回までのバジュラやV型感染症に関する情報は、図書館でミシェルとクランが入手した資料にしても、ルカの説明にしても、レオンの説明にしても、そのほとんどはグレイスやギャラクシーからのソースが情報源だった。
つまり、“いい加減な”情報だったとうことだ。。
これについては、河森総監督が雑誌等のインタビューで「ドクター・マオの“ドクター”は博士という意味で医者ではない」とわざわざ言及していることからもわかる。V型感染症研究の第一人者とされている、マオ、ランシェ、グレイスの3人の中には医者がいなかった。
ということは、
V型感染症の被験者となったシェリルは科学的に観察されていたとしても医学的には検証されていないということになる。
それに、人類とバジュラの接触頻度は13年前の第117船団遭難事件以降、ギャラクシー船団以外はほとんどなかったはず。いったいV型感染症の症例は何例あったのか?
つまり、バジュラに関する情報を含めて、視聴者や登場人物は最終話までグレイスサイドのミスリードに踊らされ続けてきたということになる。「実はバジュラに関する情報は怪しいんだよ」ということに気づくかどうかの分かれ目は「#23 ノーザン・クロス」でレオンの説明を真に受けたかどうかだろう。
「#21 蒼のエーテル」でランカの行動に共感を得られた人はレオンの説明に疑問を持つだろうが、2ちゃんねるで「ランカ厨」だの「シェリル厨」だのとストーリーそっちのけで騒いでいた人達には理解できないだろうな(笑)
結局
グレイスは、野望と復讐に目が眩んだ愚かな“マッド・サイエンティスト”で天才科学者でもなんでもなかったということ。
バジュラの生態は?
まず、バジュラは生物学的にいう“生物”なのか。これは否だ。少なくとも地球上の生物の定義で計れる生命体ではない(故に「超時空生命体」である)。
前述した、製作スタッフがマクロスFにどういう世界観を持ち込んでSF的な世界を構築したかということを推測する限り、今回のバジュラについて製作スタッフが生物学的な検証をしているとは思えない。
バジュラが体内で武器を生産するだけであればまだしも、あの空母や母艦はどうやって製造したのか、あるいは空母や母艦自体がひとつの生命体なのか、生物学的な説明は不可能だろう。
というわけで、筆者も生物学的な見地は無視する。
バジュラはフォールド波を放つ腸内細菌のネットワークで情報伝達を行う。これは「#23 トゥルー・ビギン」でレオン三島が説明したとおりだ。だが、その他のレオン三島の説明は結局無茶苦茶だった(笑)
バジュラは腸内細菌が構築したフォールド通信を介してネットワークで情報共有を行う。
各個体が脳細胞のシナプスのように繋がって全体で思考することは間違いないだろうが、脳神経のシナプスにもそれぞれ記憶領域がある。バジュラ・クィーンが大脳皮質の役割を担い、個々のバジュラがその他の部分の役割を担っているということだろう。
そして、
個々の固体も腹部に心(理性ではなく感情)を持ち、歌で気持ちを伝えることができるということだ。この部分をグレイス達は見落としていた。 バジュラが相互に意思疎通する方法は、レオンの説明とバクテリオ・ファージ型の腸内細菌のイメージから、バジュラ同士が直接フォールド通信で情報の授受をするのではなく、バジュラが獲得した情報によって腸内細菌の情報が書き換えられ、腸内細菌のネットワークを介して他の個体の腸内細菌の情報が書き換えられ、それをバジュラが認識するという手順だと思われる。
イメージ的には腸内細菌が、通信装置とフラッシュメモリのような役割を果たしているということだろう。
シェリルのV型感染症は完治?
これは私は完治したと考えていいだろう。まず、大前提としてルカがシェリルに説明した内容を100%信用する必要はない。
おそらくバジュラの腸内細菌はフォールド波による通信で「先天的にバジュラの腸内細菌を持つ人生命体以外は敵性」という情報を保持している。このため、ヒュドラもV型感染症で狂ってしまった。
最終話でランカが正気を取り戻した頃から、
バジュラはランカの歌とシェリルの歌を通じて「人間は個別に意志を持つ」ことを理解し、腸内細菌も「人間とは共生可能」という情報に書き換わり始めた。 その情報がランカ内の細菌からシェリル内の細菌に伝達され、「先天的にバジュラの腸内細菌を持つ人生命体以外は敵性」の情報にもとづきシェリルの脳髄へ侵食していた細菌は本来定着すべき腸内へ戻ったということだろう。
まるでランカのミラクルパワーで治ったように描かれていたが、あれはフォールド通信で会話するランカ、シェリル、アルトの精神世界のイメージ。シェリルが治癒したことを象徴的に示すためのイメージだろう。理論的にはバジュラと腸内細菌の関係を理解すれば意外と簡単に説明がつく。
ちなみに、バジュラ本星に降り立ったフロンティア市民がV型感染症に罹る心配はないのかというと、バジュラの体液を直接体内に取り込むような行為をしない限りまず感染しないうえに、原因となる腸内細菌に「人間とは共生可能」という情報を持って腸内に定着するため、無害であると考えてよいだろう。それ以上にフォールド通信で意思疎通ができるという有益性の方が大きいかも知れない。
ランカとシェリルの歌の役割は?
「アイモ」を「愛・おぼえていますか」に置き換えて考えれば、今回の戦闘は「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」における第一次星間対戦とまったく同じ図式だったことがわかる(ただし、歌姫2人が戦闘で歌ったのはラブソングのメドレーで、この部分はTVシリーズに近い)。
グレイス=ボドルザー。ゼントラ軍=クィーン以外のバジュラ。そして今回はブリタイ指令の役はクォーターのワイルダー艦長だ(バジュラを率いたわけではないが、オマージュになっている)。
そして、バジュラを味方につけたのは、ランカとシェリルが歌で伝えた“人の心”。バジュラと人類で心が通じたということだ。しかも、ランカとシェリルの歌は基本的にはアルトへの愛の歌。これが恋の歌である「アイモ」と共通することでバジュラの感動を引き出した。
グレイスがクィーンの頭部から送った指令は、単なる言葉による命令であり、そこにはバジュラ・クィーンの心は含まれていなかった(ゼントラーディで言えば“文化”がなかった)。
だから、腹からのフォールド波に歌を乗せて伝えてくる歌姫2人が味方だと判断されたのだろう。
これは想像だが、クィーンの腹部が緑色に輝いていたので、クィーン自信も歌姫2人と共鳴し、腹部からのフォールド波に歌を乗せてバジュラたちに命令が無効であることを伝えていたのかも知れない。
ゼントラーディは人間と同じ遺伝子をもち、人間とほとんど同じ容姿を持った巨人族だった。だから、歌を通じて相互理解ができるという設定については視聴者も簡単に理解できる。
それを今回はわざわざ、人類とは全く異形の生命体に置き換えたということ。プロト・カルチャーは畏敬の念をもって神と崇め、人類はその形状と脳が存在しないことから「虫けら」として憎み、蔑んだ(視聴者も同じ視点で理解していた)。
結局、ランカをスカウトした際、オズマに「
歌は文化、文化は愛。つまり、歌は愛なんです。そして、ランカさんにはその愛を伝える力がある」と言い、シェリルに「歌は文化、文化は愛。今のあなたの歌には愛があります。」と言って無償の協力をした
エルモ・クリダニクの言葉が今回最大のキーワードだったのだろう。
エルモは「あの不幸な第1次星間戦争の時、武力でなく、始めから歌で分かり合おうとしたら」とも言っていたが、これもバジュラに対しても当てはまる。
ランカを世に送り出し、シェリルの復活を支えたエルモのモットーこそがマクロスFのテーマそのものであり、エルモこそが今回のTVシリーズ最大の功労者と言えるかもしれない。
三角関係の行方は?
どうやら、
河森総監督は一夫多妻を容認らしい
いや、マジで(笑)
【10/6】追記
「人生(たび)のつれづれ」ブログさんのエントリ「
マクロスFのその後を想像してみました」で後日談を想像されていて、なかなか興味深い検証をされています。ただ、V型感染症の脅威はなくなったのとトライアングラーの結末はないのかなと(笑)